建て主さんにとっての家づくり


 私も自分の家づくりを経験しましたが建て主さんにとっての家づくりは「暮らしに関する様々な価値に優先順位を付け、自分に合ったものを選択する」ということだと考えています。その取捨選択の過程が家づくりの醍醐味です。何が自分に合っているかを一つ一つ検討し選択することを繰り返すことで漠然としていた暮らし方のイメージがより具体的なものとして見えてきます。

 例えば打ち合わせではよく次のような相談をします。「木の部分は塗装仕上げですが、木の本来の肌触りや質感を楽しみながら暮らしたい場合には塗料は木の内部に浸透していくタイプを使います。汚れや水ハネの跡などが気になるようなら表面に幕を作るタイプの塗料を使います。汚れにくく掃除もしやすいですがツルツルした人工的な肌触りになります。お薦めは浸透タイプですがいかがですか?」

 無垢の木の肌触りという価値とメンテナンスや使い勝手という価値とを比較して優先順位をつけて選択していただきます。これにより今までどのくらい本物の木に触れることを楽しむ暮らしをしてきただろうか?と自らに問いかけたり、メンテナンス方法を調べ掃除の頻度を想像したりしながら新しい家での時間の過ごし方をより具体的にイメージすることができます。

 初めから新しい家での暮らし方を明確に伝えていただける方もいますが誰もがそうではありません。家づくりの過程において様々な価値に触れ一つ一つ自らの暮らしに当てはめていくことで、当初は考えもしなかった暮らし方のイメージへ到達できる場合もあります。
 一つ一つ自ら検討し、決断を繰り返してできあがった自分の家には一層の愛着を持って大切に住むことができるはずです。コミュニケーション不足のまま進行した家づくりは住まわれてからの不満にもつながるのではないでしょうか。

 


合板と無垢のフローリングの質感を比較。この場合、質感や肌触りの差は歴然としています。
合板フローリングは汚れにくく掃除もしやすいですが、光沢が強く触り心地も冷たい印象があります。
実際に触っていただきながら判断していただきます。





前回:家づくりとは
次回:設計者にとっての家づくり

ブログ一覧へ戻る

2017年01月16日